今読んでいる『高い城の男』という作品は、日本やドイツが戦争で
勝ってアメリカが負けてしまったという話なんだ。
これ、アメリカ人が書いたんだよね。
面白そうだけど、よくそんな作品認められたね。
今回は、フィリップ・K・ディック原作「高い城の男」
(原題:The Man in the High Castel)を取り上げてみたいと思います。
フィリップ・K・ディック の作品といえば、映画『ブレードランナー』の原作「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」でよく知られているSF作家です。
聞いたことがあるという方もいるでしょう。
さて、歴史改変小説である『高い城の男』という作品は、聞いたことが
ありますか?
それでは紹介していきます。
『高い城の男』のあらすじ
『高い城の男』は、ヒューゴ賞を受賞した作品です。
フィリップ・K・ディックの中で、めずらしくロボットや宇宙人が出てこない
作品です。
見方によっては、暗黒郷(ディストピア)とも見てとれる作品です。
舞台は第二次世界大戦が終わった後の世界です。
枢軸国(日本・ドイツ・イタリア)が勝利し、連合国(アメリカ、ソ連)が敗北したため、
アメリカは、日本・ドイツのの占領下に置かれています。
そんな中、連合国(アメリカ、イギリス、ソ連)が勝利し、
枢軸国(日本、ドイツ、イタリア)が敗北した、
本来の史実に合った内容の小説が売り出されます。
小説の名は、『イナゴ身重く横たわる』。
一体、劇中の作者はどういう思いで書いたのか?
彼らの過ごす世界は現実なのか虚構なのか?
『高い城の男』で伝えたいこと
『高い城の男』で伝ええたいことは、以下の2点です。
- どのように歴史改変がなされているか
- 現実と虚構の中にある易経
『高い城の男』ではどのように歴史が改変されているか
枢軸国(日本・ドイツ・イタリア)が勝利したこと自体が史実と異なるわけですが、
他にどういったところが史実と異なるのかいくらか下に挙げてみます。
- 真珠湾攻撃は、甚大な被害に及んだ(→史実では被害は最小限)
- ローズベルト大統領はマイアミで暗殺される(→史実では暗殺されていない)
- 日本軍はフィリピンとオーストラリアを占領している(→史実では占領していない)
- ヒトラーのお気に入りの人物、アルベルト・シューペアが経済復興の恩人
になっている。
(→史実ではナチスに関わった人物は犯罪者としてみなされている)
etc.
これ以上言うと何だか嫌な予感がするのでこれくらいにしておきましょう(汗)。
史実とフィックションのちがいを見ると、
戦時中の歴史を勉強しているような気分になりました。
現実と虚構の中にある易経
今回、「易経」を用いて吉凶を見る描写が多く出てきます。
(日本で頻繁に使われるということはないので、そこに違和感があるのですが…。)
フィリップ・K・ディックは、「現実と虚構」「本物と偽物」をテーマにした作品が
多いですが、「易経」は原作者のテーマに非常に適したものと言えるでしょう。
「易経」はもともと中国発祥で、周(紀元前1046年頃~紀元前256年)の頃に
生まれたものです。
「周易」と呼ばれたそうです。
「周易」が成立すると、物事の判断の是非を占うという易本来の目的に、もう一つの要素がつけ加えられる。すなわち、自然現象の吉凶と人事(政・道徳)の吉凶を同一視するようになったのである。
出典:『現代に息づく 陰陽五行 増補改訂版』稲田義行著 P61ℓ2~6
さて、「周易」の易は、「日」と「勿」に分けて考えてみるとこんな意味になります。
もう一つ、「勿」が「月」を示すという説もある。
出典:『現代に息づく 陰陽五行 増補改訂版』稲田義行著 P57ℓ9~13
そこから転じて、「日」が「男性」「男性器」を表わし、「月」は「女性」「女性器」にシンボル化されたという。このあたりになると、伏羲と女媧の関係につながって、それぞれ「陽」と「陰」へといたる解釈の過程にあるといえるだろう。
また、そのことは「変化」より「生成」に力点を置いた解釈ともいえる。
つまり、「現実と虚構」「本物と偽物」は、「陽と陰」のように対になる存在でありながら
一つとなっている。
作品内で「易経」を使うということは、史実とフィックションが混在して一つの世界を
創っているということを間接的に主張しているのだと感じます。
まさに、フィリップ・K・ディックにとって「易経」は興味の対象となったのでしょう。
『高い城の男』の後日談
ちなみに『高い城の男』が発表されたとき、アメリカだけではなく、ドイツや日本から物議をかもしたようです。
一時期作品に関連したイベントも開かれましたが、
中止になったそうです
『高い城の男』まとめ
アメリカ人が日本のことを取り上げ、史実とは異なる世界に仕上げていることが
新鮮でした。
本作品は、いろいろ賛否両論あるそうですが、一読する価値は大いにあります。
テレビドラマ化もされていますので、興味のある方はぜひご覧ください。